絹谷幸二 東京芸大退官記念の展覧会 東京・上野の同大学美術館(産経新聞)

 現代絵画の最前線で活躍する画家、絹谷幸二さんの東京芸大退官記念の展覧会が5日から同大の大学美術館(東京・上野)で開かれている。初期の油彩作品から最新作まで、作家の軌跡をたどる約50点がそろう。自由奔放な鮮烈な色彩が展開される。(渋沢和彦)

 絹谷さんの代表作に「アンセルモ氏の肖像」(昭和48年)がある。友人を描いたこの作品は、人物の姿は爆発したようで形がなくなってしまった。赤い色彩の背景も鮮やか躍動的。昭和49年、この作品で具象絵画の新人の登竜門だった安井賞を当時の最年少の31歳で受賞した。

 以後、次々に意欲的な作品を発表。「アンジェラと蒼い空II」(51年)では、頭部や胴体は皮膚がめくり上がり、なぜかフレームがみえる。そして目からは大粒の涙が飛び散る。描かれたのは壊れた女性だ。絹谷さんは「原爆ドームからのイメージ」だという。全体に明るいことからハッピーな感じが漂うが、悲劇的なのだ。

 絹谷さんは、東京芸大卒業制作のアカデミックで落ち着いた色調の「自画像」からは想像できないほど華々しく変貌を遂げた。それは、アフレスコ画(日本では一般にフレスコ画)に出合ったからともいえるだろう。アフレスコ画はバチカンのシスティーナ礼拝堂の天井面が代表するような西洋の古典的技法。絹谷さんは東京芸大大学院の壁画科に進み、本場のベネツィアやローマで学んだ。消石灰と砂を水でこねてできた漆喰(しっくい)をパネルに塗って、漆喰が乾かないうちに顔料ですばやく描く。そのため、油彩のように描き直しがきかず、失敗は許されない。

 絹谷さんは「漆喰、つまり石灰岩は昔の生物の死骸(しがい)です。それが大地をつくり、人間の生存にもかかわっている。大自然の摂理のなかで仕事ができるのがいい」という。

 絹谷さんにとって天職のような仕事だが、公共建築の現場で壁画制作する場合は、肉体を酷使する。平成2年、東京・池袋の東京芸術劇場の天井壁画の制作中、足場に登って描いた際には首を痛めた。「最近ようやく直ってきましたが、一時は激痛で首が動かなくなってしまいました」

 3月いっぱいで大学を退官するという絹谷さんは、20年以上、母校の東京芸大で後進を育成してきた。教育現場に立ちながら自作の制作に余念がない。今回の回顧展のため、新作の大作に取り組んだ。

 昨年夏、滋賀県高月町の渡岸寺で出合った国宝の「木造十一面観音立像」からインスピレーションを受けて描いたという。「見た瞬間、衝撃を受けました。『描け』と仏が慈愛を持って語りかけてきた」。創作意欲は旺盛だ。19日まで。

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【プロフィル】絹谷幸二

 きぬたに・こうじ 昭和18年奈良市生まれ。東京芸大大学院修了。46年渡伊し、ヴェネツィア・アカデミア入学。アフレスコ画を研究(48年まで)。49年安井賞、62年日本芸術大賞受賞、89年毎日芸術賞を受賞。平成9年長野冬季オリンピック公式ポスターに採用された。13年日本芸術院会員に。

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